ふだんのくらしのしあわせ

2019年7月17日

こんにちは。臨床福祉学科の山﨑です。

大学の講義では、「地域福祉」を担当しています。

「地域福祉」という言葉は2000年に社会福祉法が改正され、はじめて法律に明記されました。

多くの方々は、生まれ育った地域や住み慣れた家で最後まで暮らしたいと願っています。それを実現することが、地域福祉の役割です。

地域福祉は「住み慣れた地域社会で、家族、近隣の人々、知人、友人などとの関係を保ちながら、誰でも自分らしく、地域の一員として普通の暮らしを送ることができるような状態を作り出していくこと」です。また、「ふ・く・し」とは、「ふだんのくらしのしあわせ」を実現することではないでしょうか。

さて、「ふだんのくらしのしあわせ」とはどんな暮らしでしょうか。特別な暮らしではなく、普段の暮らしとは、どんな暮らしでしょうか?

私は、ソーシャルワーカーを目指す学生にとって、市井の人たちの当たり前の暮らしに寄り添い、その人らしい生活を理解できることが、高齢者や障害者の方々の生きる力を支援するうえで、大切な資質だと考えています。

今回は、私が「月刊住民流福祉」(2013)に投稿した拙稿を紹介します。「わが母は一人暮らし上手」として母の生活を紹介していますが、地域で生活する高齢者と息子夫婦の関わりの中で、地域で自分らしく生きるとはどんなことか、一考していただく素材になればと考えます。

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わが母は一人暮らし上手

宮崎市 山﨑睦男

母、84歳、3年前に父を亡くし、現在、実家に一人暮らしだ。

多少、耳が遠いが、都合の良いことはよく聞こえるらしい。持病の糖尿病を抱えるも、地域の人たちに支えられ、元気に暮らしている。

息子の私は57歳、実家から車で1時間程度のところに、妻と2人暮らし。共働きで育てた、一人息子は県外で就職。来るべき老後の支え手には期待薄の予感あり。

母の暮らしは、父の仏壇へ朝食を供えることから始まる。めずらしいものが手に入ると、仏壇へ上がる。夜には晩酌を欠かしたことがない仏さんである。朝食を遅めにとり、庭の草取り、家庭菜園が目下の日課になっている。テレビはたまに見るが、昼間はせわしく、小さな体で動き回っている。

地域では民生委員さんや“見守りさん”が、時折訪ねていただき、見守りの対象となっている。また、ご近所の友人たちから、ちらし寿司や煮しめ等、夜の総菜が届く。時には母から、お返しに米や菓子を届ける。物々交換がご近所づきあいの極意らしい。

母の生活を観察すると、幾つかの一人暮らしの極意が見えてくる。

① 父とのつながりを大切にしている。

② 困った時には、ご近所に助けを求める。

③ 頂き物は、お返しを忘れない。

④ 体を動かす

⑤ 無駄を省く。物を大切にする。

⑥ メモをする。日記をつける。

⑦ 不在の時には、自分の居場所を明らかにしている。

⑧ 見守られているが、困っている人は見守る。

⑨ 自治会の役割を果たす。

こうした“極意”は母が一人で生きていくため、地域に果たしている役割でもある。

そして、その極意は息子の私にも課せられる。

母の日常の暮らしに距離を空けている、息子の役割である。

そのひとつは、ご近所のあいさつ回りである。普段、お世話になっているご近所の方に、「今度、帰るときにあいさつお願いね!」「誰それさんから、いただき物したから、お礼お願いね!」、電話口から母の指示が飛ぶ。スーパーでは「あの人、民生委員さん………」、ご近所で葬式でもあると、通夜や葬式に伺わなくてはならない。それは時に、妻の役割でもある。息子の自分にとっては実家であり、ご近所には昔馴染みの人もいるが、母がご近所付き合いしている方々の名前までは、心もとない。しかし、嫁は一人ひとりの名前を覚えている。これが、嫁の極意かと、感心させられる。

私を頼ってくれているには違いないのだが、母にとっては、息子と嫁が時折、地域の人たちと関わってくれることが、心地良いのだと思う。

時に、こまごまとした依頼もあり、親子喧嘩もするが、母とご近所のネットワークに私がつながることこそ、母が私に課した役割なのだと思う。そして、今後、母の介護が必要になった時、ご近所のネットワークの中で、暮らし続ける母の希望をかなえてあげることが、次の私の役割である。

(月刊住民流福祉、2013/10月号)

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今、「地域共生社会」の実現が地域福祉の課題として示されています。

「地域共生社会」とは、「人と人、人と資源が世代や分野を超えつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」とされています。とりわけ、地域に生きる住民として、多様な価値観を理解し合い、「支え支えられ」の関係を築いていくことが求められています。

そのような中にあって、学生には、どんなに重い障害や生活課題を抱えていても、その人の価値観や生き方、人としての権利を理解し、「ふだんのくらしのしあわせ」を支援できるソーシャルワーカーに育って欲しいと願っています。

 

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