保健科学研究所では、オープンキャンパス開催日(2004年7月25日、9月19日)に活動内容を一般市民に公開した。研究員は九州保健福祉大学保健科学部の教員を兼任しているため、作業療法学科、言語聴覚療法学科、視機能療法学科、それぞれ学科紹介を含めて研究活動の公開を行った。
場所:九州保健福祉大学3号棟1階
オープンキャンパスは、これから保健科学分野に進学を希望する学生や一般市民に大学の教育内容や研究活動を公表することを目的としている。本年度は、保健科学部作業療法学科に所属する教員(研究員)が中心となり、以下の活動を行った。

写真1 片腕作業の体験
写真1は、片腕を固定し、自由に動かすことのできる片腕で作業を行わせている障害体験の場面である。健常者を片麻痺状態にさせ、機能訓練として実際行われている内容を体験させた。通常、作業療法学科の学生は授業として手工芸や織物実習を治療手段の一環として学んでいるが、片腕作業による製作の難しさを体験することで、障害者の立場になって作業療法を行えるようになる。
評価実習室では、脳年齢測定、腱反射、重心動揺、筋電計を使用して筋活動量、三次元動作解析装置を用いたからだの動きの測定を行った。写真2は脳年齢測定を行っている様子である。日本では高齢者人口の増加に伴い、高齢者の痴呆も増加しており、痴呆の予防が重要と考えられている。まず、痴呆であるか否かを診断し、軽度であれば痴呆が進行しないよう訓練する必要がある。また、痴呆予防および改善の効果を評価する必要がある。今回利用した脳年齢測定装置は試用機であったが、研究機器として保健科学研究所に導入できれば、学生に対する高度教育や痴呆に関する研究が発展できると思われた。

写真2 脳年齢の簡易診断
日常動作訓練室では、下半身不随(まひ)の障害者が車椅子を利用して生活するための訓練が行えるよう設置されている。また、片麻痺でも調理ができる日常生活支援機器があり、生活支援機器の利用および訓練が日常生活全般に及ぼす影響について研究することも可能である。調理のバリエーションが増えることにより、食生活が変わり、ライフスタイル全般が改善されると考えられる。障害を持ちながらも、その個人に合ったライフスタイルを構築していく関わりは、「生活の質」(クオリティ・オブ・ライフ)を考えた時に重要な視点である。
義肢装具実験室では義肢の展示を行った。義肢に関する研究は身体障害者の残存機能を維持・向上させるために極めて重要である。義肢の素材の開発、人間工学、バイオメカニクス分野からのアプローチがさらに必要と考えられる。
場所:3号棟1階(言語聴覚療法学科実習棟)
展示内容
今年度のオープンキャンパスは、例年通り7月および9月の2回開催されたが、いずれも実施内容は同様であり、下記のように大きくは4種類の内容であった。さらに、言語聴覚士を志望する方を対象に、担当教員および在学生が様々な相談に応じるコーナーも設けられた。
1) 学科紹介プレゼンテーション(D-131教室にて)
高校生および一般市民を対象に、言語聴覚士およびその養成課程である当言語聴覚療法学科について、ビデオプロジェクターを用いたプレゼンテーションを行いながら、説明と紹介を行った。
2) 実習棟体験デモンストレーション(D-131にて)
上記1)の学科紹介に引き続き、当学科の特徴的な実習設備である「社会生活コミュニケーション室」を用いて、見学者参加型のデモンストレーションを行った。その内容および目的は、ことばやその他の方法を用いたコミュニケーションの大切さと、コミュニケーション能力が障害された場合の事の重大さについて理解を深めること、さらに、そうした方々を対象とする言語聴覚士という専門職について理解を深めていただくことであった。
3) 実習棟見学ツアー(実習棟全体にて)
「社会生活コミュニケーション室」、「家庭生活コミュニケーション室」をはじめとする当学科の実習室において、学生が聴力検査、失語症検査、構音検査、発達検査など様々な検査演習デモンストレーションを行った。また、上記以外の言語検査や心理検査、各種の聴覚検査、摂食・嚥下機能検査等についても機器や道具、説明パネルの展示を行い、言語聴覚士の仕事の一端や当学科での教育内容について紹介を行った。見学者には、ガイドの説明を聞いていただきながら実習棟内を一巡していただき、言語聴覚士の多様な仕事内容や当学科の教育内容について理解を深めていただいた。
4) 体験コーナー(実習棟全体にて)
上記3) の見学ツアー終了後に、希望された見学者には、興味を持った検査の被検者体験をしていただいた。あるいは、展示されている各種検査機器や訓練機器、コミュニケーションを支援する機器などのうち、興味を持ったものについて改めて質問をしていただいたり、操作体験をしていただくことで、コミュニケーション障害や言語聴覚士についての理解を深めていただいた。


写真3 開催の様子1(左)受付付近,(右)展示内容


写真4 開催の様子2(左),(右)展示内容


写真5 開催の様子3(左),(右)展示内容
場所:九州保健福祉大学3号棟2階視機能療法学科実習室
内容:眼の健康相談
近年、疾病構造や健康に対する考え方の変化に伴い、健康教育の普及や健康増進活動が地域レベルにおいても高まっている。これらの活動は、個人が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするといったヘルスプロモーションの理念に基づいて行われることが望ましいとされている。
ヘルスプロモーションでは、医学や保健学、福祉学、心理学、社会学などの各専門職が、知識や技術の提供および環境づくりの支援などを行うことが重要とされている。
今回、地域住民のヘルスプロモーションの一助となることを目的に、オープンキャンパス期間中に眼の相談を行った。
視機能療法学科来場者96名のうち、希望があった10名(10.4%)に対して眼の健康相談を行った。内訳は、受験生4名、受験生の保護者5名、一般の来場者1名であった。

写真9 実際の相談風景
眼の健康相談は視機能療法学科の常設コーナーとして設置し、QOL研究機構プロジェクト研究メンバーを中心に相談に応じた。
相談者のプライバシーを尊重し、他のコーナーとは別の実習室を使用した(写真9)。
特徴的な相談について、具体例を示す。
1:18歳の男性。弱視眼鏡使用中の受験生。相談内容は、日常生活中での弱視眼鏡の上手な使い方についてであった。実際に普段の使用状況を再現してもらい、確認したところ、紙面と弱視眼鏡との距離が不安定で、一定ではないことが明らかとなった。学科所有のさまざまな度数の弱視眼鏡、近用拡大鏡を使用して、対象物とレンズとの距離を確認してもらい、文字を鮮明に見るためには、レンズと対象物との距離が重要であることを助言した。
2:50歳の男性。受験生の父親。相談内容は、白内障術後で、眼鏡を作成したがよく見えず、本人が希望する十分な見え方ではないということであった。使用眼鏡の度数が適切かどうかを確認するため、視力・屈折検査と眼鏡度数の確認を行った結果、作成した眼鏡度数が適切な値ではなかったことが原因であることがわかった。検査結果を元に、完全屈折矯正の重要性について指導した。
3:56歳の女性。数か月前から階段の昇降が不自由であることについての相談であった。詳しく話を聞く中で、上下にだぶって見える(複視)ことがあることがわかった。眼位・眼球運動・複視検査を行ったところ、左眼の上斜筋麻痺の疑いがあることが明らかとなったため、眼科を受診し精密検査を受けることを促した。
4:17歳の女性。受験勉強中にときどきものが2重に見え、かつ眼精疲労を訴えていた。眼位・眼球運動・複視検査を行ったところ、間欠性外斜視の疑いがあることを発見し、眼科受診を勧めた。
5:52歳の男性。受験生の保護者。最近二重焦点眼鏡を作成したが、見にくく上手に使用できず困っているという相談であった。近見視力検査、屈折検査、眼鏡度数の確認を行ったが眼鏡自体に問題はなく、使用状況を再現してもらうために新聞を読んでもらった。その結果、レンズ下方の近用部がうまく使用できていないことと、レンズ度数に応じた視距離があっていないことが原因と考えられた。新聞を使用して、視対象物の距離と近用部の使用について助言した。
6:その他、流涙、眼脂、羞明などの訴えがあり、日常視で不自由を感じているなどの相談があった。「みる」ことに関して、日常で不自由を感じている人が多く、相談の中でその原因を探り、学生実習および研究用の視能検査機器を用いて検査を行い具体的な検査結果を提示しながら説明することで、考えられる問題点を可視化することができた。相談および検査結果から視能の問題点を抽出し、その対応策を示すことで、相談者のヘルスプロモーションの一助となりうる可能性が示唆された。
健康相談を行い、考えられる問題点についての知識を提供しても、専門家ではない一般市民にはその知識の適切な使用による問題点の改善方策の実行にまでつながらないことが容易に推測された。しかし今回は、大学内ということで、視能検査機器が充実している実習室ですぐに検査を行い、検査結果を基に目に見える形で問題点の提示および対応策を示したことで、ヘルスプロモーションの実践に有用な具体的な視能の状態と対応策の知識を提供できたと考えられた。WHOが提唱するヘルスプロモーションは、QOLの向上を最終的なゴールに設定していることから、今回の眼の健康相談は地域住民のQOLの向上につながると推測された。
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