大学は教育機関であると同時に研究機関でもあり、したがって大学教員は教育者であると同時に研究者でもあることが求められます。大学教員が研究を行うのは、新しい発見をして科学の発展に貢献したいからだけでなく、教員自身が研究の最前線にいなければ目覚ましいスピードで進歩する医学・薬学領域の講義を行うことはできないからです。つまり、研究活動は良い教育を行うためにも必須なのです。
この章では、科学研究費助成事業(科研費)などの競争的資金に本学科教員が研究代表者として採択されている研究課題をご紹介しようと思います。
科研費
まずは科研費について説明します。科研費は、全国の大学や研究機関において行われる様々な研究活動に必要な資金を助成するしくみの一つです。科研費を受けようとする者は、十数ページにわたる綿密な研究計画調書(申請書)を提出します。そして複数の審査員(各分野の専門家によって構成される)がそれを読んで審査を行います。申請課題の採択率は年度によって若干変わりますが、だいたい25%前後の狭き門です。
詳しくお知りになりたい方は以下の日本学術振興会HPをご参照ください。
言うまでもなく、教員の研究課題の一部は本学科5、6年次の学生たちが卒業研究として取り組んでいますので、あなたも将来このような最先端の研究を行う機会があるかもしれませんよ。
それでは、本学科教員の採択課題(新規・継続を含む)をご紹介しましょう。
本学科教員の採択課題(新規・継続を含む)
1.緒方 賢次 教授
研究課題 | 非観血的に測定した組織血流速度を指標とする薬物動態変動予測に関する研究 |
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研究種目 | 科研費 基盤研究(C) |
研究期間 | 2022-04-01 – 2025-03-31 |
研究内容 | 病気や加齢によって腎臓の機能が低下すると腎臓の血流速度も低下します。腎臓は体内の老廃物を血液から尿に排泄しますが、薬物も同様に排泄されます。したがって、腎臓の血流速度が低下すると薬物の排泄が遅延するため、血液中濃度が極めて高くなり、副作用が起こることがあります。このような事態を避けるため、患者さんから採血して測定した薬物の血液中濃度を指標として薬物の治療評価および投与計画が行われます。この研究では、血流測定計を用いて腎臓の血流速度を非侵襲的に測定することによって、腎機能低下に伴う血流速度の変化から薬物の血液中濃度の上昇を定量的に評価する方法を構築します。この方法を医療の現場に応用すると採血ができない状況でも(非観血的に)薬物の治療評価および投与計画が実施できるようになります。 |
2.内田 太郎 准教授
研究課題 | 電極吸着分子が触媒となる二酸化炭素還元反応 |
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研究種目 | 科研費 基盤研究(C) |
研究期間 | 2022-04-01 – 2026-03-31 |
研究内容 | 二酸化炭素の有用化を目指して、電解による二酸化炭素の他の物質へ変換のメカニズムを、先端分光法やコンピュータ・シミュレーションを駆使して明らかにし、その知見をもとに、高活性・高選択的に二酸化炭素を変換できる反応系の確立を目指します。 |
3.渥美 聡孝 准教授
研究課題 | セリ科三生薬の生産に関する日本固有の知識・技術の検証と最適化 |
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研究種目 | 科研費 基盤研究C |
研究期間 | 2024-04-01 – 2027-03-31 |
研究内容 | 日本の生薬生産は、一部の篤農家の経験に頼っており、科学的な栽培体系が十分に確立されていません。本研究では、セリ科三生薬の安定供給を目指して、発芽や生育のばらつき改善、栽培法の検討、品質評価を通じた技術の標準化を進めます。 |
4.中村 賢一 講師
研究課題 | 腸内細菌由来の新規C-配糖体代謝酵素の探索と酵素を利用したC-グリコシル化法の開発 |
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研究種目 | 科研費 基盤研究(C) |
研究期間 | 2024-04-01 – 2027-03-31 |
研究内容 | 漢方薬成分の腸内細菌による代謝は、漢方薬の薬効発現に関与していると考えられています。本研究では、漢方薬成分を代謝する腸内細菌の探索や、腸内細菌の酵素を利用した有用物質の生産法の開発を行います。 |
5.徳永 仁 教授
研究課題 | 処方提案・多剤服用防止のためのモダリティー等を活用した教育ソリューションの開発 |
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研究種目 | 科研費 基盤研究(C) |
研究期間 | 2021-04-01 – 2024-03-31 |
研究内容 | 薬剤師は服用期間中も患者をフォローすることが義務づけられ、医師に処方提案や多剤服用防止の形でフィードバックすることが求められています。近年では、薬剤師の病棟活動やカンファレンス参加の機会も増え、フィジカルアセスメントのみならず心電図・超音波・X線・CT・MRIなどのモダリティーから得られた結果を目にする機会も多くなりました。しかしながら、現在の薬学教育のなかにモダリティー等の活用術についての教材は少ないのが現状です。私たちは、これまでに多数のフィジカルアセスメント(身体的健康上の問題を明らかにするために、全身の状態を系統的に評価すること)に関連したeラーニング教材を開発してきました。この経験を基にICTを駆使して処方提案・多剤服用防止に向けたモダリティー等を活用した教育ソリューションを開発していきます。 |
6.木村 博昭 教授
研究課題 | 非アルコール性脂肪性肝炎の免疫プロテアソームの役割の解明:新規予防・治療法の開発 |
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研究種目 | 科研費 基盤研究(C) |
研究期間 | 2020-04-01 – 2023-03-31 |
研究内容 | これまで、遺伝子改変マウスを利用して、糖・脂質代謝異常(肥満・糖尿病・インスリン抵抗性など)や様々な内分泌疾患(甲状腺疾患など)・炎症(マクロファージの活性化)に免疫プロテアソーム(細胞内におけるタンパク質分解機構)が関与していることを見出しています。本研究課題では、最近の医学の重要課題の一つである非アルコール性脂肪性肝炎(メタボリック症候群と関連)の病態発現・進行における免疫プロテアソームの役割を、遺伝子改変マウスや阻害剤を用いて解明し、新規予防・治療法の開発を目指します。また、本研究に至る詳細(これまで取得した研究費や論文など)や、関連した研究テーマについては、氏名のリンクから研究者情報のサイトにとんで、さらにresearchmapのリンクにアクセスすると記載されています。 |
7.吉田 裕樹 教授
研究課題 | 食品成分による効果的なTreg細胞誘導を介した炎症・アレルギー疾患の予防法開発 |
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研究種目 | 基盤研究(C) |
研究期間 | 2023-04-01 – 2027-03-31 |
研究内容 | これまで、肥満関連疾患(生活習慣病)やアレルギー疾患に対する新規予防・改善法開発のために、脂肪組織・細胞や免疫細胞の炎症・機能制御に対する食品成分や天然物由来成分の効果や、その作用機序の解明を行ってきました。本研究では、食品成分による効果的な制御性T細胞の誘導法を模索し、炎症・アレルギー疾患の新たな予防・改善法を確立するための基礎研究を行っています。 |
8.内田 太郎 准教授
研究課題 | 表面増強赤外吸収の偏光依存性と界面計測への展開 |
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研究種目 | 科研費 若手研究(B) |
研究期間 | 2017-04-01 – 2023-03-31 |
研究内容 | 物質の反応性や機能性はその物質の表面や界面の原子・分子の構造に支配されます。これまで、表面増強赤外吸収(SEIRA)という金属表面吸着種の赤外吸収が増強される現象を用いた分光法(SEIRAS)で固液界面のその場測定を行い、機能性や反応性が起こる原因を分子レベルで明らかにしてきました。本研究では、SEIRAの偏光依存性を明らかにすることで、SEIRAS測定の可能性を拡げることを目的としております。 |
9.鳥取部 直子 教授
研究課題 | GLP-1受容体作動薬による糖尿病血管れん縮と血栓性狭窄の予防へ向けた基礎的検討 |
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研究種目 | 科研費 基盤研究(C) |
研究期間 | 2025-04-01 – 2028-03-31 |
研究内容 | 心臓にある冠状動脈に血栓が詰まったり、攣縮(れん縮、過剰な収縮)が起こり、心臓がうまく機能しない病気を冠動脈疾患といいます。この病気を治療するために、冠動脈バイパス手術が行われます。バイパス手術は、体の他の部分から血管を採取し、心臓の問題部位をまたいで連結する手術ですが、この血管の攣縮の防止と血栓による血管の狭窄の軽減が、良好な長期成績結果をもたらします。本研究では、糖尿病治療薬のひとつであるGLP-1(Glucagon-like peptide-1)受容体作動薬の効果について、糖尿病モデル動物を使用し、薬理学的にその効果を解明し、有用な基礎的知見を提供することを目的とします。 |
科研費以外にも、たくさんの競争的資金があります。
CREST
そのうちの一つであるCRESTとは、国が定める戦略目標の達成に向けて研究代表者が複数の共同研究グループを組織し実施するネットワーク型研究のことです。その研究内容を以下に簡単にご紹介します。
大倉 正道 教授
研究課題 | 蛍光インジケーターの改良と開発 |
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研究種目 | 科学技術振興機構 CREST「オプトバイオ」(野田昌晴チーム:大倉グループ) |
研究期間 | 2017 – 2022年度 |
研究内容 | 脳は常に体液(血液や脳脊髄液)の状態をモニターしており、その情報に基づいて水分/塩分の摂取行動や血圧の制御を司っています。しかし、その詳しいメカニズムはわかっていません。 本CREST研究では「近赤外光による遺伝子発現制御法」と色変換型Ca2+インジケーターによる「マルチファイバー解析法」を開発するとともに、「神経路選択的遺伝子導入法」を用いて、体液恒常性や血圧調節を担う脳内機構と神経回路を明らかにします。大倉グループはインジケーターの改良と開発を行います。 |
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
医療分野の研究開発における基礎から実用化までの一貫した研究開発の推進・成果の円滑な実用化及び医療分野の研究開発のための環境の整備を総合的かつ効果的に行うため、健康・医療戦略推進本部が作成する医療分野研究開発推進計画に基づき、医療分野の研究開発及びその環境の整備に取り組むものです。
渥美聡孝 准教授
研究開発課題名 | 科学的根拠に基づく高品質生薬の国内栽培拡大に向けた参加型研究開発(分担研究) |
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研究種目 | (AMED)創薬基盤推進研究事業 |
研究期間 | 2022年~2025年度(全研究開発実施予定期間:2021~2025年度) |
研究内容 | 漢方薬原料である生薬は、約9割を海外からの輸入に頼っています。本課題では、薬用作物研究者と生産者が連携し、国産生薬の安定供給を目指しています。渥美准教授はつる性薬用植物の資源調査や生薬問屋との連携を担当し、その中で発見した課題を解決するため日本の薬用植物学分野で初めてGIS解析を導入し、野生資源の分布傾向を可視化しました。 |
この課題の中で渥美准教授は、①ツル性薬用植物について全国の山を歩いて資源調査を行い、優良品種を探索すること、②生薬生産流通を担っている地元密着型の生薬問屋と連携して国内で生薬生産を持続できるビジネスモデルの開発に関与します。