1 前田 和彦 教授
これまで脳死からの臓器移植、安楽死、尊厳死、医療過誤等において、臨床上の医療従事者の倫理観と法的責任について研究を進めてきた。近年は、従来の研究に加えて、医療従事者(薬剤師を中心として)の資格法上の業務範囲と実際の医療現場での業務範囲との適合を現場のリサーチ等から比較検討し、医療従事者に必要な倫理観と対応する法制度の再構築を図るべく研究を進めている。薬剤師等の医薬品使用の安全性等は、対応する専門職の臨床に特化した倫理観とそれを支える法制度の適切な相関関係の中にあるべきとのことを導き出すのが研究の主眼である。
2 髙村 徳人 教授
これまで血清中のヒト血清アルブミン(HSA)およびα1-糖蛋白質(AGP)の薬物結合サイトの結合能と薬物生体内分布の関連やサイトの微環境変化およびHSAの抗酸化能についての研究を進めてきた。近年は、HSAおよびAGPの結合サイトの経時的な結合変化を患者血清から直接測定するための手法を開発し、その結果に基づき鎮痛薬の効果的な投与方法の臨床応用を可能としている。さらに病態評価のためのフィジカルアセスメントの手法も取り入れている。これらの経験をもとに、HASやAGPの解析法および臨床応用についても修得する。研究手法としては、HPLCや円二色による分析法および蛍光プローブ法やUV吸収差スペクトル法などを用いている。
3 鈴木 彰人 教授
これまで、薬物血中濃度解析および副作用モニタリングの手法を用いて、処方設計支援を中心とした医薬品適正使用に関する研究を行ってきた。近年は、日本を含めた主要諸国において、チーム医療で行う臨床栄養管理が重要視されるようになったことから、薬物療法のみならず栄養療法にまで視点を広げ、脳血管障害回復期における適正な臨床栄養評価の実施に関する研究を手がけてきた。現在はさらに、侵襲期、特に外科手術時の栄養管理について、新たな栄養指標として酸化ストレスマーカーを取り入れることを試み、生化学的手法を用いて栄養療法における個別化治療に貢献できることを目指している。
4 白﨑 哲哉 教授
これまで、電気生理学、Ca2+イメージング、行動科学的手法などを用いて、中枢・末梢神経の生理機能と薬毒物の薬効および副作用発現機序等について解明して来た。最近は、超音波発声など非接触性の最新行動科学解析技術も取り入れて、環境要因の中枢神経機能に対する影響の解明と予防薬学への応用を目指している。また、環境要因とウェアラブル端末を利用した、ヒトでの疾病予防・健康サポート法についても検討している。
5 徳永 仁 教授
これまで副作用の軽減を目指した薬物投与設計に関する研究、副作用を誘発する薬物の体内動態に関する研究及び薬学的評価に関する統計解析などを進めてきた。方法としては、HPLC、原子吸光光度計、培養細胞によるトランスポート実験、MTT試験である。また近年は、副作用を発見するために必要なバイタルサイン及びフィジカルアセスメントが学べる教材開発を進めている。方法としては、患者データをプログラムしたシミュレータと様々な医療機器を組み合わせることにより病態変化が確認できるシミュレーション教授法の構築やeラーニング教材の開発を手がけている。
6 大倉 正道 教授
これまで緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いた蛍光Ca2+プローブG-CaMPを開発・改良し、イメージングによる神経回路機能の研究を行ってきた。近年は、さまざまな蛍光プローブの開発・改良とそれらの病態モデル実験系への応用を通じて、発症の前兆となり得る微弱な細胞活動異常の検出、発症に至る過程での細胞活動の変容の解明を目指した研究を行っている。研究手法として、分子細胞生物学、生化学、薬理学、分子間相互作用測定、光学測定、蛍光イメージングなどを用いている。
7 木村 博昭 教授
私が薬学部に進んだのは、新しい薬を開発して、多くの人に貢献しようという考えからです。免疫・炎症反応に興味を持ち、薬学部の学生の時から炎症が関わる病態の発症機構を解明し、新規治療法を開発するために、マウスや細胞を利用して研究しています。免疫が関わる病態として自己免疫やアレルギーなどの疾患がありますが、最近、糖尿病などのメタボリック症候群や癌においても免疫が関与することがわかっています。数種類の遺伝子改変マウスや改変細胞を利用して、標的となる分子がどのように上記の疾患の病態に関わっているかを解明し、新規の治療法を開発する研究を行っています。
8 鳥取部 直子 教授
これまで生活習慣病モデルラットにおける交感神経調節機構、また循環器系疾患モデル動物を使用した健康食品の安全性および副作用についての研究を進めてきた。近年は、心臓バイパス手術におけるヒトバイパス血管のセロトニン誘発れん縮を増強するリスクファクターの解明を進めている。研究方法として、血管収縮反応測定のためのマグヌス法、組織免疫染色、ウエスタンブロット、ノザンブロット、PCR など分子生物学手法を用いている。
9 金光 卓也 教授
医薬品や生理活性物質の中には不斉炭素を含み、その立体異性体により示す薬理作用や薬理活性の異なるものがある。そのような化合物を光学純度良く合成する不斉反応の開発は、有機合成化学に与えられた最も重要な課題の一つである。これまでに有機分子触媒を利用した不斉反応法の開発を行い、HIVプロテアーゼ阻害剤や鉱質コルチコイド受容体拮抗薬などの生理活性物質の合成を達成した。現在、さらに有効な新規有機分子触媒の開発とそれを用いた不斉反応の開発、有用天然物の合成とそれをリード化合物とした類縁体の構造活性相関の解明を目指して、有機合成化学を中心とした研究を行っている。
10 緒方 賢次 教授
これまで薬物の治療効果を高めるための投与計画に関する研究を進めてきた。具体的には薬物血中濃度モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring: TDM)に関する研究、タンパク結合置換現象を利用した薬物の遊離型濃度を高めるための研究である。近年は、ヒトおよび病態モデル動物における薬物の体内動態と薬理効果の関係解析、フィジカルアセスメントの手法や非侵襲的に病態を評価できる医療機器を用いて薬物の体内動態の変化を簡便に評価する方法の開発に取り組んでいる。研究手法としては、動物実験、HPLCや蛍光プローブ法などを用いている。
11 松本 貴之 教授
これまで糖尿病や高血圧といった慢性疾患モデルを用い血管収縮、弛緩反応の異常とその機序について解析を進めてきた。近年は、様々な物質ならびに生体内イベントの血管機能への直接的影響について解明を進めるとともに、慢性疾患における血管機能障害を惹起する物質の探索を進めている。研究方法として、薬理学、生理学的手法による血管機能測定ならびに血管機能に関連する情報伝達機構の解析、さらに、生化学、分子生物学的手法を組み合わせて分子機序の解析を行っている。
12 吉田 裕樹 教授
これまで糖尿病などの肥満関連疾患に対する新規予防・改善法開発のために、脂肪組織・細胞や免疫細胞の炎症・機能制御に対する食品成分や天然物由来成分の有用性評価を行ってきた。さらに近年は、食品成分による免疫細胞の機能制御を標的としたアレルギー疾患の予防・治療法開発に関する基礎研究を進めている。研究方法は、実験動物や培養細胞を使い、生化学・分子細胞生物学・免疫学等の実験手法と用いる。これらの研究を通して、食品成分等の疾患に対する有用性評価と作用機序の解明を目指す。
13 甲斐 久博 教授
これまで医薬先導化合物や機能性成分を開拓するために、成分報告の乏しい薬用植物や農作物などの天然資源から新規生理活性物質の探索を行ってきた。さらに近年は、メタボロミクスを基軸とした薬用植物の品質評価法を構築する研究に挑戦している。研究方法は、カラムクロマトグラフィーやHPLCを用いた分離精製、NMRやMSを用いた構造解析、培養細胞や酵素を用いた生理活性評価など広範囲に及ぶ。これらの研究を通して、天然資源含有成分の医薬品や化粧品への活用および高精度なスクリーニングツールの開発を目指す。
14 田原 佳代子 准教授
医薬品の中には代謝物に強い毒性がある場合があり、生体内で反応性の高い代謝物を生成することが原因と考えられている。このような薬物について、生体内と同一の代謝物を効率よく生成し、検出する方法を開発してきた。生体内では、反応性代謝物が生体内分子と反応し(このことが毒性に繋がる)、反応性代謝物の単離は行えないため、生体外で薬物代謝物を生成できる電気化学反応を使ってアプローチしている。今後、反応性代謝物の構造や生体内分子との反応機構を明らかにし、毒性メカニズムの解明に繋げていく。
15 堤 敏彦 准教授
第2世代の生理活性リン脂質の代表格である血小板活性化因子PAFの細胞内での動態を手始めに、細胞増殖・分化や創傷治癒など様々な生理作用を有するリゾホスファチジン酸(LPA)について研究している。近年は、LPAが腎障害の憎悪か治癒のいずれに擬態をするかを調べるために様々な腎障害モデルを作成し、体液や組織内のLPAや関連する脂質およびその生産酵素について調べてきた。また、LPAの消化管での代謝と粘膜上皮細胞への作用や疾患の関連性についても調べた。現在は、グリセロホスホジエステラーゼファミリーについても着目している。リゾリン脂質の産生・代謝酵素、受容体の量的および質的変動、並びにそれら組織における生理学的・病態生理学的役割を明らかにした。
16 渥美 聡孝 准教授
薬用植物の安定供給は国家における医療保健の根幹を担う課題である。薬用植物は医薬品原料となるだけでなく、漢方薬原料として、疾病の治療に重要な役割を担っています。しかし日本国内の薬用植物の自給率は約1割で、ほとんどを海外からの輸入に頼っており、漢方薬などの医薬品供給はカントリーリスクを抱えているといえます。薬用植物の国内自給率を改善し、薬剤師の任務である「医薬品の安定供給」を達成することを目的として、エビデンスを基にした薬用植物栽培方法の国内標準化に関する研究を行います。本研究を行うことによって、品質の良い薬用植物の国内供給を達成します。
17 内田 太郎 准教授
合理的な物質設計を行うためには、機能性や反応性を示す物質とその標的となる物質の表面の相互作用(薬剤であれば、薬剤分子と標的タンパク質や酵素の表面、触媒であれば、触媒表面と標的物質)の分子レベルでの理解が必要不可欠である。合理的な薬物分子設計の加速に貢献するため、表面増強赤外分光という表面を選択的かつ高感度に観測できる先端分光法をはじめとした各種分光法と、計算化学的手法、ケモインフォマティックス的手法を組み合わせ、物質の機能発現機序や触媒反応機構を分子レベルで解明している。さらに、これらの知見をもとに新規の機能性物質や触媒開発を行っている。
18 長野 貴之 准教授
ミクログリアは虫垂神経系を構成する細胞の一種である。アルツハイマー型認知症や神経因性疼痛などの脳や脊髄の病態時に、遊走、貧食、サイトカイン遊離、そして増殖などの細胞機能を亢進させて、それらの病態に関与していると考えられる。ミクログリアの細胞機能は、様々な生理活性物質により調節されているが、詳細については不明である。病態時に中枢神経系で増加する生理活性物質としてプロスタグランジンE2などが報告されており、それらのミクログリア細胞機能発現に対する作用を明らかにすることで、中枢神経系の病態機序解明と治療薬開発を目指す。