研究目的と意義
世界保健機構(以下「WHO」)は、健康に関する国際的共通概念を提唱し、それに基づいて2001年5月にそれまでの「WHO国際障害分類(ICIDH)」に代わる「国際生活機能分類 ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)」を策定した。
ICFは、人間の生活機能と障害に関して、アルファベットと数字を組み合わせた方式で分類するものであり、人間の生活機能と障害について「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの次元及び、それらの次元に影響すを及ぼす「環境因子」等で構成されており、約1,500項目に分類されている。
この分類法によって、身体・精神的機能障害により社会的不利を分類する考え方が中心であった従来の観点に対して、「生活機能」「環境因子」等に基づく肯定的・否定的な側面を打ち出し、人の健康に関するすべての側面を分類することで、健康状況と健康関連状況、結果、決定因子を理解し、研究するための科学的な基礎が提供されることになった。
このICFを活用することによって、障害や疾病を持った人やその家族、保健・医療・福祉等の幅広い分野の従事者が、相互に障害や疾病の状態についての共通理解をもつこと、障害者に向けたサービスを提供する施設や機関などで行われるサービスの計画や評価、記録などの実際的な方法の提供、障害者に関する様々な調査や統計について、比較検討する標準的な枠組みの提供などが可能となる。
しかし、具体的な活用のあり方については、現在WHOにおいても検討が進められている段階であり、研究事業を通して、効果的な活用方策を検討することが強く求められている。
本学「クオリティ・オブ・ライフ研究機構」の各研究プロジェクトは、このような視点に基づき、人の健康に関する全ての側面を研究対象とし、地域社会の「生活の質 QOL(Quality of Life)」の向上に資する研究を重点的に行い、研究成果に基づく、具体的な活用方策を提案することによって、「地域」からわが国全体のQOL向上に貢献することを目的とする。
研究プロジェクトの特徴
QOL研究機構では、社会福祉学・保健科学・薬学という異なる学問的視点から、以下の3つの研究プロジェクトを配置する。
プロジェクト1地域生活行動(活動と参加)支援モデルの研究開発(社会福祉学研究所)
健康的な地域生活のあり方という視点からの研究を展開する。特に、高齢者、障害児・者をモデルにその行動特性を分析・評価し、生活環境の整備を含めた生活支援モデルの形成を行う。
プロジェクト2健康と生活機能向上のための支援システム及び訓練技術開発(保健科学研究所)
生活機能とその障害という視点から研究を展開する。主として身体機能、言語聴覚機能、視覚機能の側面に対する相談(アドバイス)・訓練技術の開発と、それに基づく生活機能向上支援システムの開発を行う。
プロジェクト3薬物の副作用によるQOL低下に対処する薬学の視点からの支援法の開発(薬学研究所)
生活習慣病の予防と治療という視点から研究を展開する。主として、高齢化に伴って増大が予測される神経系の疾患や循環という器疾患を対象として、その発生メカニズムの追求と薬物的作用の検証を行う。
3つの研究プロジェクトは、各々の学問的観点から、ICFに基づく人の生活機能向上を統一研究目標とし、相互に有機的に関連を持ちながら、総合的に一体となって研究を推進し、その研究活動と研究成果を基盤として、地域住民・地域社会への貢献、社会的・経済的観点を視野に入れた応用的研究を推進するところに特色がある。
また、地域社会を研究フィールドとして、詳細に調査分析し、評価基準・生活機能支援モデルを作成し、研究機構を基盤として、相談活動、公開講座、研修会、シンポジウムを通して提案していくことで、地域社会全体のQOL向上の実現を図り、その成果に基づいて国内外にも支援モデルを展開していく。
さらに各研究プロジェクトの協働によりICFを基軸とし評価基準を策定し、各研究プロジェクトの件はこの評価基準を横軸として可能となる。この為、各研究プロジェクト間の研究成果の統合は、同一の評価基準を共有することで実施される。
また、このことは各研究プロジェクト相互による、研究評価の可能性と同時に、研究機構としての統合研究成果(福祉政策提言、地域社会福祉モデルの提言)を容易にする、本研究プロジェクトの最大の特色である。
研究組織
QOL研究機構は、「社会福祉学研究所」「保健科学研究所」「薬学研究所」の3研究所を統括し、有機的に機能させるために3つの研究所を同一施設内に設置している。
組織的には、研究活動と研究機構の運営の両面をマネージメントする機構長(学長)と、各研究所を統括する所長を配置し、合わせて研究事務部門をおく計画である。
また、研究機構の円滑な運営と各研究所の連携を図るため、「運営委員会」を設置し、研究機構全体の施策・運営を決定する役割を果たすとともに、「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成14年6月20日)に従い、研究開発に対する評価ルールを策定し、各研究プロジェクトにおける評価を厳密に行い、研究成果とその評価を同時に公表していく責任を果たす。
但し、研究過程における理論上の問題は重要な課題でもあることから、各研究所の情報開示にあたっては、研究機構が本学倫理委員会とも協議しながら内容の検討にあたる。
QOL研究機構運営委員会
九州医療科学大学
- 機構長:兒玉 修
- 社会福祉研究所長:正野 知基
- 保健科学研究所長:竹澤 真吾
- 薬学研究所長:大倉 正道
人材育成計画
1) 研究者の養成
「生活機能」という新たな視点を持つ研究過程を通して、今後の保健医療福祉分野に関する若手研究者の育成を図る。そのため、本研究機構では次のような人材育成計画を持つ。
- 研究プロジェクトに共同研究者として積極的にPD、RAなどの参加を促進して幅広く人材養成に供する。
- 本学大学院生を研究プロジェクトへ参加させることによって若手研究者の育成を図る。
- 施設、病院、福祉機器メーカーや製薬会社など関連する企業の客員研究員を積極的に受け入れる。
2) 高度専門職業人の養成
QOL研究機構に参加する研究者はそれぞれの専門的分野を有していることから、その分野における専門研究会あるいはリカレント教育の機会を通して高度な専門職業人の養成にあたる。
同時に、本研究機構の研究遂行にあたっては、それぞれの分野における専門職業人を参画させる必要性があるため、共同研究活動そのものを通して必然的に高度な専門性の獲得が可能となる。