2020年日本の夏

8月23日付『日本経済新聞』歌壇に,横浜の森秀人さんの

「洗われて布マスクふたつ揺れている二〇二〇年日本の夏」

という作品が掲載されていました。コロナ禍,アベノマスクという現在の状況と,「キンチョウの夏」という昔のCMが頭をよぎり,メモしました。各紙にコロナを詠んだ詩歌が掲載されていますが,何十年か後には注釈が必要になるかもしれません。

8月,日本の夏と言えば,甲子園と,広島・長崎の平和記念式典,終戦の日など平和について考えさせられるものがあります。7月頃の新聞の片隅に「明子のピアノ」の復元の記事があり,後日岩波ブックレットに「明子のピアノ」(写真1)が発売されているのを知り注文しました

20082801.jpg

 

そして,テレビの番組表でNHKBSプレミアムのドキュメンタリードラマ「Akiko’s Piano被爆したピアノが奏でる和音(おと)」が放送されるというので,録画して見ました。ドラマでは被爆直後に19歳で亡くなった河本明子さんの生涯を,残された日記をもとに再現し,彼女が愛していたピアノが復元され,演奏されるに至る経過を描いていました。ブックレットは彼女の生涯を前半に,後半は彼女のピアノが復元・演奏される過程を丁寧に描いております。その中で,復元された彼女のピアノを有名なマルタ・アルゲリッチやピーター・ゼルキンも弾いていること,さらに現代音楽の作曲家藤倉大さんが協奏曲を書き,アルゲリッチさんに献呈されることも記されています。

私はブックレットを読み,ドラマを見て意外な発見をしました。広島には広島交響楽団というオーケストラがあり,テレビで流れたピアノ協奏曲の演奏も広響でした。ブックレットには,この広響との関係で,シンフォニア・ヴァルソヴィアというポーランドのオーケストラの記述があります。寝ながら読書のつもりでいましたら,枕元に並べているベートーヴェン交響曲全集の中に『ユーディ・メニューイン指揮シンフォニア・ヴァルソヴィア』(写真2)があるではありませんか。

20082802.jpg

 

全集の帯には名ヴァイオリニストのメニューインが1984年に創設したオーケストラということです。これを購入したのは名ヴァイオリニストのメニューインがどんな指揮をするだろうかという興味くらいで,オーケストラの成り立ちまでは目が届きませんでした。添付の解説も読んでいませんでした。今回,広響とのつながりを知って聴き直し,読み直すと味わい深い演奏に聞こえます。特に第5番「運命」について,「実は私は,この交響曲の最初の数小節の,つくりもの的なぎょうぎょうしさが大嫌いでたまらないのです。(略)」というコメントもあり,逆にどんな風に演奏しているのか興味が湧きます。

新聞記事→本→テレビそして自分が所持していたCD全集とのつながり,というような体験をしていると,私たちが読んだり見たり経験していることは,実はどこかでつながっているのではないかと思います。ただ,必要なときに引き出しの奥に眠ったままで出てこないだけなのも知れません。今回のように,見事につながると,嬉しくて,とても得をしたようになります。

また,前職を退いた後最初に聴いた『英雄』が,今回登場した広響とHBGホールだったことも何かの縁なのだなぁと感じています。「新しい生活様式」ではなく,通常の生活が戻ってくることを祈念しながら。

 

                                                                                                                                                                                                                      臨床福祉学科 長友道彦でした。