「時流」に流されない

新型コロナの影響で、本学の講義開始は4月20日からです。

たくさんの期待を持って新入生が入学してくれましたが、大学の楽しさを実感するには、しばらく時間がかかりそうです。

 

最近読んだ2冊の本のなかで、同じ言葉が出てきました。それは「時流」という言葉です。

「時流」とは、「その時代の風潮・傾向」という意味です。

 

1冊目の本のタイトルは『時流に反して』(竹山道雄、文藝春秋、1968)というもので、以前、このブログ※で紹介した先生にいただいた本です。

 

※ 臨床福祉学科ブログ 『読書の冬休み』2020年1月7日

 

第二次世界大戦中から戦後の筆者の体験や、当時の政治や世論の考えなどが記されたもので、「なぜ人々は戦争へと突き動かされたのか」ということが述べられていました。戦争など誰もしたいわけがありません。せざるを得ない状況が当時にはあり、世論も疑問を持ちながらもその時代を生きたのだと感じました。

 

2冊目は『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』(中村哲、NHK出版、2013)です。中村哲さんは福岡出身の医師で、30年以上アフガニスタンで活動しました。先生は、医療活動をするなかで水と食料不足が根本的な問題であることに気づき、医師でありながら独学で河川工事の技術を学びました。そして地元住民を指揮し、沙漠に水を引き農地を復活させ、安定した水の供給と自給自足の生活を実現しました。残念ながら昨年の2019年12月に現地で銃撃にあい亡くなられました。

この本の終章に日本の人々に対するメッセージが書かれていて、その一説に「時流」という言葉が出てきました。

「変わらぬものは変わらない。江戸時代も、縄文の昔もそうであったろう。いたずらに時流に流されて大切なものを見失い、進歩という名の呪文に束縛され、生命を粗末にしてはならない。」(pp.245-246)

経済中心で目まぐるしいスピードで進む時代のなかで「本当に大切なものは何か」ということを問うているように感じます。

 

 

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1968年と2013年という半世紀近くも離れた書物から「時流」というキーワードの重なりをみて、周りの雰囲気に押されて無考えにならず、今、起きていることじっくり考える大切さを学びました。

 

これから日本はますます少子高齢化が進みます。また、多様性が広く認識され、いろいろな価値観を持つ方と接することになるでしょう。

臨床福祉学科の学生には「時流」に流されず、これからの福祉社会を考える学生に成長してもらいたいです。

 

三宮 基裕